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血とキズナ

第8章 レース

 


* * * * *


 深夜の1時を少し回った頃、鴇津が自分の単車を停めてある駐輪場へ向かうと、リツはすでにその単車のすぐ隣にしゃがみ込んでいた。

  鴇津の気配に気づき、リツは笑顔で鴇津に手を上げる。

 白シャツの上に黒のパーカーを羽織り、下は緩めのジーンズ。

 リツの服装は、いつもシンプルだ。
 アクセサリーや小物はあまり身に付けない。

 変に着飾らないリツのスタイルが、鴇津は嫌いじゃなかった。

「ユウゴはどうした」

 思わずそう口にしたが、特別気になったわけではなかった。

 ただ、開口一番にリツのことを話すのが照れくさかっただけだ。

「原付しか持ってないから早めに行っとくって、30分くらい前に出てったよ」

 リツの答えを聞きながら、鴇津はリツにヘルメットを渡す。

「佐山は」

「言ったんだけどやめとくって。邪魔したくないとかなんとか言ってた」

「そうか」

 佐山にそんなふうな思われているのは、複雑な気分だった。
 鴇津がリツを気に入っていることがバレている。

 これほどあからさまなのだから当然だと言えばそうなのだが、気を使われるほどリツを気に入っていることを他人に知られていることが気恥ずかしい。

 そんな居心地の悪さを消すように、鴇津は少し荒っぽくスタンドをあげ、重い単車を公道へと押し進める。
 単車を跨ぎヘルメットを被っていると、リツは慣れた様子で鴇津の後ろに座った。

 後ろにリツが乗るのは久しぶりだ。
 バイト先の送迎を止めてから、リツが後ろに乗る機会がめっきりなくなった。

 久しぶりにリツを乗せてみれば、背中に妙な安心感がある。
 不思議な感覚だった。

「行くぞ」

 ヘルメット越しにリツへ声をかける。
 声がヘルメットの中で響いた。

「うん」

 くぐもったリツの声が答えた。

 顔は近いのに、声は遠い。
 でも背中に感じる体温に、鴇津は何かに包まれた気がした。
 鴇津は本丸峠に向かって、アクセルを回した。

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