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血とキズナ

第8章 レース



 寮から40分も走れば、人はおろか車すら通らず信号もほとんどない町外れに出る。
民家は多いが、この時間になればみんな寝静まり電気の消えている家がほとんどで、光源といえば外灯と自販機ぐらいである。

 そんな町に聳えるのが、標高1000メートルほどの仙荒山。
 そこを奔る峠道が、今夜の祭り会場、本丸峠である。

 鴇津が安全運転で峠道を登っていく。
 何個目かのカーブを曲がると、3台の二輪車がかなりのスピードで下っていった。

「もうレース始まってんの?」

 リツが不思議そうに聞いてきた。

「コースの下見してんたよ」

 そう言っているあいだにも、何台かのバイクが爆音とともに鴇津たちの横を駆け抜けていく。

「あれで流してんの? すごいな」

 素人から見ればそう見えるのか。
 しかし鴇津からしてみれば、今すれ違った連中の中に、めぼしい奴はいない。

 最後のカーブを曲がると、少し先に頂上の広い駐車場がある。
 昼間は景色を見に来る観光客の多いスポットだが、今夜は車やバイクの横行する重厚な雰囲気へ変貌していた。

 すでに駐車場には50台ほどのバイクとそのライダーが集結し、さらに観客や彼らの車でごった返している。

 普段は静寂と陰気な空気が流れる夜の山が、今日はその影もない。
 しっかりと手の入れられたエンジンたちが、今か今かと震えている。
 その独特の雰囲気に、リツが後ろで「すげー」と、感嘆の声をあげた。

 その集団の中に、鴇津はゆっくりと乗り込んだ。
 バイクの到着に、バイク好きは振り返る。
 近づくと男たちがざわついた。

 「トキツだ」と、至るところでつぶやかれる。

 鴇津は気にする様子もなく、無造作にヘルメットを外した。
 それに倣うようにリツもヘルメットを外し、鴇津の耳元へ口を近づけた。

「鴇津さんて有名なの?」

 リツの問いかけに「別にそうでもないだろ」と、鴇津は興味がない。

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