血とキズナ
第8章 レース
「俺も行くわ」
「え、もう行くの」
「受付とか、いろいろあんだよ」
「そっか。てか俺、鴇津さん走り出したときどこにいたらいい?」
「ここにいてもいいぜ。まあ、観戦するならスタートしか見えないけど」
「それはちょっとつまんないな。抜くとことか見たいけど、どこで抜けるかなんてわかんないもんね」
リツが肩を落とす。
鴇津はずっとひとりで走ってきた。
夜に国道を流すのもひとり。
レースもひとり。
それがとても快感だった。
走りたい時に走り、行きたいところまで行き、出したい速度を出す。
邪魔なやつをぶち抜いてひとりの世界を走るのは、爽快だった。
通り名とか、観客なんて、気にしたこともなかった。
自分の事を誰がどう呼ぼうが、どう思おうがどうでもよかった。
だが今日はリツが見ている。
今、初めて見られていることを意識した。
こいつに、敵を抜き去るところを見せてやりたい。
人の前でいい格好をしたいと思ったのは、初めてだった。
「一番下のヘアピンカーブんとこで見てな」
「なんで?」
「そこで抜くから」
「え、そんなことできんの?」
「俺を誰だと思ってんだよ」
リツがにっこりと笑って言った。
「わかった。楽しみにしてる」