テキストサイズ

血とキズナ

第8章 レース

 



 祭りが始まっておよそ1時間。会場は熱気に包まれていた。
 観客は次々に滑走するライダーたちの走りにを狂喜乱舞し、山に絶叫が木霊する。

 じきに鴇津のレースが始まるということで、少し前にリツはユウゴの原付で、鴇津に言われたコーナーへと向かった。

 一人になった鴇津は、祭りから少し離れた木々に囲まれる小道で、火の点いた煙草をくわえながら夜空を見上げていた。

 山の頂上の空気は、地上より澄んでいた。
 下界に漂う湿気って表皮にまとわりつく湿気がなくなって、清々しかった。
 そんな場所で吸うの煙草は、いつもより美味い。

 暗くて静かな場所は、昔から好きだった。
 余計なものがなくなって、自分だけが存在する世界がやって来る。

 そこでは何をやっても許される。
 闇に隠れて、何もわからないから。
 夜の山は、そんな世界がより顕著だ。

 鴇津はひとりで、よく夜の山を流す。
 寮から比較的に近いこの峠も、鴇津のツーリングコースのひとつだ。

 ずっと夜だったらいいのにと、よく思っていた。

 夜のあいだずっと暗闇の中を疾走して、遠くの空が白んできたら寮のベッドに潜り込む。
 光から逃げるような生活を送ってきたのだと実感する。
 夜は好きで、それは今も変わらない。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ