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血とキズナ

第8章 レース

 正直、この試合にそれほどの高揚感ない。
 この3人はそれほどすごくはないことは、直感でわかる。

 だがそもそもここ最近は、熱くなるようなレースができていない。

 相手が遅いなのか、鴇津が速いのかはわからないが、このところレースをしても、一人で国道を流しているときと気持ちは変わらない。

 ギアチェンジのタイミング。コーナーに突っ込む速度。
 少しでも最短距離を行くために、ガードレールや岩壁に車体を寄せるのは命を削る。

 そんなぎりぎりの走りの中で、相手をぶち抜くことが快感だったのに、その感覚がいつしか無くなっていた。

 そこまでしなくても、勝てるようになってしまった。
 そんな緊張感のない走りで、魂が煮えたぎる感覚など味わえるはずがないのだ。

 だが今日は違う。
 リツが、この走りを見る。

 それだけで、グリップを握る手に力が入る。 車体を支える足が浮き足立つ。

 久しく味わえなかった、心地よい緊張感が、体中を巡っていた。

 だがその緊張感も、今までのものとは少し違う。

 ゙リツに、格好悪いところを見せたくない゙

 勝っても負けても、今まではすべて自分だけの問題だった。

 気持ちよくても、悔しくてもムカついても、それは自分の中だけで完結するもので、他人にはなんの関係もないことだった。

 だが今日負けたら、リツがきっと慰める。
 慰められるなんてゴメンだ。

 俺はアイツに、゙凄い゙と思われたい。
 3人まとめてぶち抜いて、いいとこを見せたい。

 これも、はじめて抱く感情だった。
 自分を高めていく理由に他人を使うのは、弱い奴のやることだと思っていた。

 速く走るのに他人は関係ない。

 相手が速くても遅くても、自分には関係ないし、ましてや観客のために走る奴なんて意味がわからなかった。

 バイクに乗るのは誰のためでもない。
 ただ自分が速く走りたいからだ。

 そんなことを思っていた俺が、今日はリツにいい格好したくて走る。

 思わず顔がほころんだ。

 自分もついに、弱い者の仲間入りだ。

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