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血とキズナ

第8章 レース

 でも、そんなことはもうどうでもいい。
 集中は今までの中でいちばん高まっている。

 無駄な力は抜け落ちて、気持ちは波のない湖面みたいに澄んでいる。

 今日はたぶん、今までで最高の走りができる。

 ブルースターズがそれぞれ位置に着いた。


「みなさん、準備はいいですね? ではいきますよー」


 主催者が腕をあげた。

 観客の熱気が最高潮に達する。

 鴇津はそっと息をはいた。


「スリー、ツー、ワン……」


 ブルースターズがエンジン音を上げる。
 鴇津はまっすぐ、街灯に照らされたコースを見据えた。


「ゴウ!!」


 腕が下ろされるのを見て、鴇津はアクセルを回した。

 地面から足を外す。
 ギアを上げる。
 スピードが乗った。

 ぐんぐんと速度をあげ、鴇津はぴったりと3人の後ろにつき、最初のコーナーを曲がった。


「あのヤロ……」


 群衆の中で漏れた松根の呟きは、誰に聞かれることもなかった。




  * * *



 すべてが闇に溶ける山の中で、一筋の光が山頂から麓まで奔る。

 その唯一照らされた道を、鴇津は駆け抜けていた。

 闇に沈む木々が一瞬ライトに照らされては、あっという間に後へと消える。

 そして前には3台の単車。
 そいつらは一定のペースで走り、横一列に並んでいる。

 コーナーを曲がる。
 コースからオーバーしないよう、膝がつくギリギリまで車体を倒す。

 レースの醍醐味はコーナーワークだ。
 各コーナーには、観客が貼り付いている。
 その中をレーサーたちは駆け抜けていく。

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