無料で楽しめるちょっと大人のケータイ小説

　しかし、前の３台が遅い。

　車体を倒しながらアウトにできたスペースにバイクの鼻先をいれようとするが、しっかりとブロックされ抜かせない。

　レースが始まってから、ずっとこれの繰り返し。

　わかっていたが、やはり連中は組んでいる。

　以前の自分だったらあっという間にフラストレーションが溜まって、相手を転倒させているだろう。

　だが今回は平静だった。

　自分の好きなペースで走れていないのに、ストレスは感じていない。

　ーーなぜだろう。

　再びコーナーを曲がる。

　きっちりコースを埋められて、抜かす隙がない。

　だがもしあったとしても、鴇津は抜かさない自信があった　リツがいるのは最後のコーナー。

　そこに行くまで、抜かす気は更々なかった。
　そこまでは連中にくっついて下るだけだ。

　だがそれは、鴇津にとって結構不利なことだ。

　いくつもある抜くチャンスを捨て、しかも後のないラストコーナーしか狙わないということは、本当にラストチャンスということだ。

　相手からしてみても、最後の抜かされるかもしれないポイント。

　逆に言えば、そこさえブロックすれば勝てるということ。

　必死でブロックしてくるはずだ。

　そこで抜かす何てことは、相当難しい。

　そんなことは端からわかっている。

　それでも鴇津はやれる自信があった。

　レースは中盤に差し掛かる。

　コースは少し長いストレートに入った。

　すると一番イン側にいた金髪がスピードを緩め、鴇津と並走するように隣に並んだ。

　小馬鹿にしたような表情で、金髪はヘルメットのシールドを上げた。


「ずいぶん大人しいじゃないか。さすがの黒槍も３対１じゃお手上げか？」


　鴇津は何も言わずにただ前を向きバイクを走らせる。


「ハッタリかまして俺らをカッコよく追っ払おうとしたようだが、残念だったな。レースが始まりゃこっちのもんだ」


　鴇津が後ろで大人しいことを諦めと解釈した金髪は、まだ中盤だというのにすでに勝った気でいるようだ。

　それでも無視する鴇津に、金髪は苛立つ。


「おい、なんとか言えよ」