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血とキズナ

第8章 レース

 顔を向ける代わりに、鴇津は一気にアクセスを上げた。

 あっという間に金髪を置き去り、一瞬で前2台の単車に追い付く。

 そして、1台減ったことによりできたスペースから、鴇津は前に飛び出した。

 ストレートの馬力勝負じゃ話にならない。

 歴代の紫鳳幹部達が受け継ぎ、改良に改良を加え、速さを極めた車体だ。

 その辺の単車とはパワーも足回りも別格だ。

 そんなことも分からない連中の馬鹿さ加減に、ため息も出ない。
 
 一瞬の出来事に、ブルースターズは焦ったように追いかけてくるが、単車の絶対値が違う。

 一度前を譲ったが最後、普通なら追いつけるわけがない。

 しかし鴇津はアクセルを緩め、連中に追い越させる。

 すると金髪は焦ったような困惑したような顔で鴇津を振り返り、すぐに前を向いた。

 後半戦が始まった。
 後半は前半に比べて、車道がほんの少し広くなる。

 とはいえ、単車3台が横並びになって簡単抜かせるほどのスペースではない。

 しかし鴇津にとってそれだけのスペースがあれば、十分のアドバンテージであった。

 次々とコーナーを曲がる。

 鴇津は大人しく前を走る連中について行くだけだが、先ほど一度抜かしたことが効いたのか、連中は一層ブロックに余念がない。

 コーナーの度、後ろの鴇津を気にしているのがわかる。

 だがその必死さも、今の鴇津相手には無駄だ。

 ただ神経をすり減らすだけである。

 さらに鴇津は、抜かす気もないのに少し隙があれば追い抜く素振りを見せる。

 もちろん相手の神経を少しでもすり減らして、疲れさせるためだ。

 静かな駆け引きが続き、レースは終盤にさしかかる。

 ラストコーナーが近づいてきた。

 ここへきて、鴇津にもやっと緊張が姿を見せる。

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