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血とキズナ

第8章 レース

 どれだけ余裕があったって、一度抜いたからって、ゴールラインを先に越えなければ負けだ。

 鴇津はアクセルを握りなおす。

 遊び最後のコーナーを曲がり、ついに勝負の時がきた。

 最後のコーナーまでの短い直線で、車体1台分ほど空いていた車間をギリギリまで詰める。

 アウトから抜く気はない。

 鴇津は一番インにつく金髪の、さらにイン側に張り付いた。

 金髪がギョッとしたように一瞬振り返る。

 金髪はインのギリギリをしっかり陣どっている。
 このさらに内側にコースはない。

 金髪が驚くのも無理はない。

 最後のコーナーが見えた。左に曲っていく。

 インにはガードレールに守られるように、今日一番の量の観客たちが待ちうけていた。

 そこにリツの姿は確認できなかった。

 四つ巴になってコーナーに突っ込む。

 インは金髪の必死のブロックで、自転車1台入るスペースはない。

 インからは抜けない。

 ふと視界の右側にスペースが見えた。

 この峠は麓に行くにつれ、道がほんの少し広くなる。

 それは見てわかるほどのものではなく、走りこんでいる者だけがわかる感覚的なものだ。

 インのスペースを限りなくゼロにしようと金髪だけが気張ってしまった結果、2番目との間に隙間ができた。

 鴇津はためらうことなく、コースを変える。

 気を抜いていた2番目は反応が遅れ、鴇津の侵入を許してしまう。

 鴇津がイケると思った瞬間、金髪が進路を妨害してきた。

 コーナーという制御の難しい中で、金髪は上手いこと車体をコントロールしている。

 しかし、鴇津はほんの少しブレーキをかけた。

 体重を移動させ、一気にインへと滑りこむ。

 金髪があっと思った時には手遅れ。

 鴇津は完全にインをついた。

 まさにその瞬間、鴇津と鼻先数センチ。

 ガードレールにかじりつくように見ていたリツの笑顔が、鴇津の前をすり抜けていった。




 

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