血とキズナ
第9章
「そんで鮮やかに鴇津さんがインをえぐったわけよ。
もう超カッコ良かったよ! 佐山も来りゃよかったのに」
「わーったって。朝からナンベンその話すんだよ」
賭けレース翌日の昼休み。
5時間目が体育ということで、リツたちは体育館に来ていた。
食事の終わったリツは、佐山とバスケットゴール前で、対峙している。
島田はそんな二人を、舞台上から眺めていた。
「バイクのレースがあんなに昂ぶるもんだとは知らなかった。バイクは乗ってたけど、ああいうしっかりしたレース見たの初めてでさ、感動したよ俺」
昨日というか今朝というか、あのレースは最後のコーナーで鴇津が三人を追いぬき、勝負は決まった。
結局鴇津はその1試合だけでレースを切り上げ、再びリツを後ろに乗せて帰路についた。
しかし気分が高揚しきったリツは帰る気にならず、鴇津に強請って誰もいない道路を流し、
帰ってきたのは日が昇ってからだった。
そうして6時前に帰ってきたリツにたたき起こされた佐山は、リツに鴇津のレースを聞かされ続けるのだった。
「あいつがレースに出てたらーー……」
口に出してハッとした。
久々にリツの頭の中に明日斗が顔を出す。
リツにとって、バイクと言えば明日斗との思い出だった。
鴇津と会ったばかりの頃は、バイクを見れば明日斗が出てきて、後ろに乗ることさえ躊躇ったのに、最近は何も思い出さなかった。
明日斗を思い出すどころか、最近のバイクは鴇津とリンクする。
バイクと言えば明日斗という方程式が、曖昧になってきた。
急に怖くなった。
自分の中から、明日斗が消えていく。
すっと、脳の奥が冷える感覚が走った。
そんなことが、あるわけない。
明日斗は自分そのもので、明日斗がいなかったら自分はとっくに生きていない。
それほど明日斗はリツの中で大きかったのに、なぜーー。