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血とキズナ

第9章  

 リツは腰を落としドリブルをする。

 リツとユウゴの距離は2メートルほど。

 お互いやる気満々の眼光をぶつけ合い、リツが動く。
 ユウゴには一切近づかず、ボールをゴールに向かって放った。

 ボールは綺麗な放物線を描き、ゴールに入る。


「はい俺の勝ち。教えなさい」


 ユウゴは茫然とし、リツの言葉で怒りが湧いてきた。


「直接ゴール狙うなんてズルだ! 1on1はドライブが基本だろうが!」

「俺は点取ったらってちゃんと言ったし」

「ふざけんな!」


 ユウゴはリツに掴みかかる。


「おい、やめとけって。リツだって一応知っといたほうがいいだろ。総長のカギだって持ってるわけだし。取られたらシャレになんねぇよ」


 ユウゴは佐山の言い分に、渋々リツを解放し、自分はずんずんと転がったボールを取りに行った。

 胸倉を掴まれ咽るリツに、佐山は事情を説明しだす。


「最近、南校の勢力が上がってきててな、どうも紫鳳を狙ってるってウワサだ。
 下っぱはもう何人もヤラれてるらしい。もしかしたら近々戦争になるかもしれないとも言われてる」

「へぇー、そうなんだ」


 あまり自分に関係あるようなこととも思えなかった。
 能天気な返答をすると、うしろからボールが飛んできた。


「痛って!」

「ノンキなこと言ってんじゃねーぞ。もしテメーがボコられてカギ取られでもしたら、紫鳳はお終いだ。したら、トキツさんにも迷惑かかんだからな。わかってんのか」

「知らねえよ。てかさっきお前が関係ないって言ったんじゃんかよ」

「なんも知らねーくせに口答えしてんじゃねーよ」


 しゃがみ込んでいるリツを、ユウゴが足蹴にする。
 そんなことをしていると、体育館にチャイムが響いた。


「あ、やべ。着替えなきゃ」


 リツは転がったボールを拾いに走った。

 そんなリツの背中を眺めながら、ユウゴは口をへの字に曲げ、腕組みをした。


「ッたく。わかってんのかアイツぁ」

「大丈夫じゃないの? あいつは考えてないようで実は考えてるヤツだから。たぶん」

「ねーよ。アイツは何にも考えてねーよ」


 2人がそんな会話をしているなんて露知らず、リツはボールを拾うと、それを指先で回した。
 人差し指の先でくるくる回るボールを、リツはぼんやりと眺めていた。


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