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血とキズナ

第9章  



  ☆☆☆



「あ、やべ」


 体育の授業が終わり、教室に戻る途中の渡り廊下で、リツの足がはたと止まった。


「どうした?」


 佐山が振り返ると、リツはポケットに手を突っ込んでいた。


「ケータイ更衣室に忘れてきた」

「マジか、早く取りに行ったほうががいいぞ。この学校で高価なもんなんか忘れた日にゃ、2秒でなくなるぜ」

「マジか! それはヤバイ」


 来た道を戻ろうとするリツに、佐山が言う。


「俺も行くよ」


 最近は少なくなったものの、紫鳳のカギを持っているリツを付け狙う連中がいなくなったわけではない。

 それに、何かとトラブルの中心になりがちなリツをひとりにするのは、短い時間でも不安だった。

 しかしそんな佐山の言葉はリツに止められる。


「いいよ。次の授業ギリギリだろ。すぐ帰るから」


 リツはひとりで来た道を走って戻った。
 体育館へ入ると上級生がぱらぱらと、授業の準備をしていた。

 更衣室にも人がたくさんいて、一瞬取られたかとひやっとしたが、忘れた携帯はまだ取られてはいなかった。
 ロッカーの一番上に置きっぱなしになっている。

 よかったと、内心で呟きながらケータイをポケット仕舞い更衣室を出ようと振り返ると、リツはすでに上級生に囲まれていた。


「コイツバカか? こんな密室にひとりで入ってくるなんてよ」

「おい、ドア閉めろ」


 唯一の出入口であるドアが閉められ、鍵までもかけられた。


「校舎じゃ誰が見てるかわかんねーが、ここなら誰も助けに来ないだろ」

「しかもこの人数だ。一瞬で終わるぜ」


 更衣室の上級生は15人ほど。
 たしかにまともにやって勝てる人数ではない。


「すいません。俺今カギ持ってないんですけど」


 リツはいつもどおりへらっとした笑顔でそういうが、上級生たちもニヤリと笑う。

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