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血とキズナ

第9章  

「別に今持ってなくなくたって構わねーさ。力ずくで持ってこさせてやる」


 つまり、カギを彼らに渡すまで、自分は彼らにタコ殴りにされるということらしい。

 それはちょっと嫌だなーー。

 ふわりとリツの体が宙に浮く。
 リツはロッカーの上に跳び乗った。

 取り囲んでいた上級生たちは唖然とする。
 リツのすばやい動きについていけなかったのだ。

 気づいたときにはもう、リツはロッカーの上に設置された窓から外に飛び出していた。


「お、追え!」


 そんな怒鳴り声が聞こえたころにはすでに、リツはもう体育館裏に生い茂る、背の高い雑草に身を隠していた。

 彼らの言い分からして、校舎に入ってしまえば手出ししてこないのだろう。

 カギを持っていないーー。

 あれは嘘だった。

 カギはいつも、肌身離さず服の下に忍ばせている。
 このカギは、大切だからと机の奥底に仕舞いこむ、そういう物じゃない。

 誓いの証。約束の証。

 生きていく道標。

 一緒に生きていく相棒。
 持っていてこその物だ。

 俺に生きる意味をくれる。
 だから守るんだ。

 これを守ることが、俺がここにいる理由。

 大丈夫。
 明日斗はずっとここにいる。

 忘れるわけない。
 忘れるわけがないんだ。

 明日斗は俺という人格をくれた。
 生き方を教えてくれた。

 ワイシャツの下で、胸の真ん中にひやりとカギが触れる。

 リツはワイシャツの上からカギを強く握りこんだ。

 追手を巻いて教室に帰れたのは、6時限目の始まる直前であった。

 リツがちゃんと帰ってきて佐山はほっと息をつくと、彼は教師が点呼を終えると同時に眠りについた。

 体育のあとは毎度のことだ。

 ほかのクラスメイトも寝ていたり、雀卓を囲んだりとちゃんと授業を受けているのは2、3人で、真面目な人間のほうが目立つぐらいだ。

 教師も気にせず、黒板に話し続ける。

 そんな教室でリツは教科書を広げ、ペンを取り出そうとペン入れを開ける。
 するとそこに、見覚えのない紙が入っていた。

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