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血とキズナ

第2章 腕

 そして店の奥から、背筋を撫でるような声が響いた。


「カギ、出しな。綾野リツ」


 ソファに座っている、3人の男。
 その真ん中でどっかりと座っている彼に、鳥肌が立った。

 こいつは、徒者じゃない。

 何を考えているのかわからない、静かで真っ黒な瞳。

 髪も加工のない艶やかな黒で、それを後ろに撫でつけている。

 眉間のシワすらないその端正な顔立ちのせいで、得体の知れない怖さが襲う。


 リツは、東条から視線を外さず、ゆっくりとポケットに手を入れた。

 周りの男たちが身構えるのがわかる。
 しかし東条は気構える様子もなく、堂々とリツの行動を眺めていた。


 ポケットからカギを取り出し、東条に見えるよう掲げた。


「なぜお前が持っている?」

「明日斗から、預かったんで」

「直接か」

「はい」


 そういうと、東条は背もたれに預けていた腰を持ち上げ、前屈みになった。


「そうか。じゃあ、返しな」


 カギを持つ手がぴくりと動く。
 きゅっとカギを握り、腕を下ろした。

 リツは何も言わず東条の瞳を凝視した。


「テメエ、さっさと返せつってんだよ!」


 ひとりの男が、リツの腕を掴み上げた。


「やめろ。下がれ」


 しかしそれは東条の制止により、呆気なく止められた。

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