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血とキズナ

第2章 腕

「返したくない、か。
 どうして。柴鳳トップの肩書きが惜しいか」

「いえ」

「だろうな。それが理由だったら俺の単車乗り回されて、噂が立つもんだ。
 だが、お前どころか、明日斗に渡した頃からそんな噂もない。
 なぜ返したくない?」


 東条の低音で濁りのない声が、リツの耳にまっすぐ届く。


「明日斗はこれを、カリと一緒に返すつもりでした。
 だから、これだけ返すわけにはいきません」


 東条の口許が、一瞬動くのが見えた。

 そして東条は再び、ソファに背を預けた。


「ほう。つまり、お前は明日斗の代わりになろうってわけか」

「――はい」


 リツの答えに、東条の目の色が変わった。


「ナメんなよ。
 柴鳳には、誰かが代わりになれるような奴はいねえ。
 俺は明日斗に声をかけた。お前じゃない。
 お前に、明日斗のカリを返す資格なんざ、ハナからねえんだよ」


 東条の容赦ない眼光が、リツを突き刺して離さなかった。


「もういい。
 お前ら、適当にカギ奪え」

「うすっ」


 リツを囲んでいた男たちが、じりじりと近づいてくる。

 そして一際大きい大男が、リツの前に立ちはだかった。


「へへへ、やっと俺好みの展開だぜ」


 太い指をバキバキと鳴らし、彼は拳を振り上げた。

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