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血とキズナ

第2章 腕

 東条は小さく息を吐く。


「自分の五体満足より、死んだ奴なんかの意志が大切か?」


 リツの頭の中から一瞬痛みが消えた。
 ざわざわと何かが騒いだ。

 自分が貶されるのも、傷つくのも、リツは意を介さない。

 しかし明日斗を悪く言われたり、軽んじるようなことを言われると、昔から自分でも驚くほどの怒りで脳内を支配される。

 それを抑えるように、リツは笑った。

 笑っていると、周りの男たちが呆気にとられていくのがわかる。

 リツは穏やかな顔をして、再び顔を上げた。


「じゃなかったら、こんなところにまで来ませんよ」


 東条だけは、無の表情でじっとリツを見据えている。

「そうか」

 そうつぶやく。

 そして東条は、リツの腕を容赦なく捻り上げた。

 嫌な音とともに猛烈な痛みが脊椎を駆け抜ける。


「――ッ……あぁ!」


 あまりの痛みに手からカギがこぼれた。
 解放された体を丸め、右腕を押さえた。

 そんなリツの姿を、東条はまっすぐと見下ろしている。

 そしてそのすぐ足許に、カギは転がっていた。
 しかし東条は、それを拾おうとはしない。

 目の前に転がるカギと東条を見比べ、リツは動く左手をカギに伸ばした。

 しかしその手は、呆気なく東条に踏み潰される。


「次は、左手いこうか」


 それは、生きた餌を見る、肉食獣の目だった。

 ――これは本当に、五体使い物にならなくなりそうだ。

 痛みでおかしくなったのか、自然と笑いが漏れた。

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