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「止めて、止めてちょうだい」
　しかし、輿は止まらず、先刻よりも更に速度を増して進んでいるようだ。そのことで、キョンシルの嫌な予感は決定的になった。
「止めて！　止めるのよ」
　呼べど叫べど、輿は物凄い速さで吹きすさぶ風の中を進んでゆく。
　キョンシルは構わず輿の正面扉を開けた。輿から飛び降りてでも、卑劣な奴らの思い通りにはなるものかと決死の覚悟を固める。
　だが、敵もなかなかだった。キョンシルが扉を開けた途端、例の男―馬執事の弟だと名乗る男が合図して輿を止めた。その隙をついて飛び出ようとしたキョンシルを素早く羽交い締めにしたのである。