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側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第20章 第四話 【牡丹の花咲く頃には】 花びら占い

 やがて、夜の深い闇が二人の姿をすっぽりと飲み込み、崔ミンチュの屋敷は何事もなかったかのように静まり返った。
 納屋に監禁されていたはずの娘が霞か霧が消えるようにいなくなった―、ミンチュの屋敷が大騒動になったのは、更にそれから数時間後のことである。再び見回りに来た例の丸顔の男が鍵を開けたときには、既に娘の姿は小屋のどこにもなかった。
 鍵が開いていたというのであれば、まだ話は判るが、鍵も開けずに密室状態のまま、いかにして娘が逃げたのか?
 結局、あの娘は妖魔か鬼、もしくは狐の化けた姿だったのだ、などと実に馬鹿げた話がさも真実のように語られた。この出来事から日を経ずして、この納屋は取り壊されている。

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