テキストサイズ

側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第3章 旅立ち

 トスは長い指で下顎を撫でた。
「チソンどのがソンニョに首飾りを託した意味を考えてごらん」
 崔氏当主の奥方が代々、受け継いできたという首飾り。父は屋敷を出る際、ひそかにその品を持ち出し、祝言の夜に母に与えた。つまり、誰が認めなくても、父は母を崔家の当主夫人だと認めたことになる。
 更に、母ミヨンは父から当主夫人の証として贈られた首飾りを死の直前、一人娘であるキョンシルに渡した。女の身で家門を継ぐことはできないが、婿を迎えて存続させることはできるのだ。
 母が自分にこの首飾りを託した意味―、それが判るだけに、キョンシルはトスの諭しに素直に頷けなかった。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ