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　トスがキョンシルの頭を撫でる。
　それでも、キョンシルの涙は栓を抜いた酒樽のように止まらない。
　トスはしばらく黙って見つめていたが、やがて、次の瞬間、俄には信じられない出来事が起こった。
　ふわりと、トスの逞しい腕に抱きしめられたのだ。
「俺が悪かった。キョンシルの気持ちも考えずに、一方的に理想論ばかり押しつけてしまった。許してくれ」
　トスの深い声音がキョンシルの心に滲み込み、乾いた大地を潤す恵みの雨のように癒してゆく。キョンシルが泣き止むまで、トスは辛抱強く頭を撫で続けてくれた。
　樹齢幾百年といわれる桜の樹は、どこか孤高の老人を彷彿とさせる。泣きじゃくる少女と彼女を慰める男をただ桜だけがいつまでも見守っていた。