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側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第4章 偽りの別れ

偽りの別れ

 キョンシルは先刻から、ちらちらと傍らのトスの様子を窺っていた。もちろん、トスその人には知られないように、あくまでもそっと盗み見ているのだ。
 トスは隣に座ったキョンシルなどその場にいないかのように眼下の街を眺めることに集中しているようだ。
 キョンシルは両手をそっと頬に押し当てた。あのひととき―昨夜、桜の樹の下でいきなりトスに抱きしめられたときは本当に愕いた。もっとも、動揺して紅くなったり蒼くなったりしているのはキョンシルの方だけで、肝心のトスの方は既に心にも残っていないようではあるが。

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