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側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第4章 偽りの別れ

「あのな、キョンシル。俺が言っている狼ってのは、この場合、野郎―つまり男どものことだ。そなたはソンニョからの大切な預かり者だ。もし仮に眼を離して、そなたが通りすがりの不届き者に乱暴されでもしたら、ソンニョに申し開きが立たない」 
 ソンニョ、ソンニョ。いまだにトスは母を〝仙女〟と呼ぶ。キョンシルを大切にしてくれるのも、すべてはソンニョの娘だからだ。
「ねえ、トスおじさん。もし私がお母さんの娘じゃなかったら、おじさんはここまで私のことを気にかけてはくれなかったわよね」
 自分でも何というつまらない質問をしているのか判っていた。
 今ここで、〝もし〟とか〝だったら〟という仮定の話をしても、全く意味のないことなのに。
「馬鹿なことを言うな」
 トスは不機嫌な声で断じた。

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