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側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第2章 哀しみはある日、突然に

 二人の馴れ初めは、ミヨンが仕立物を納めている絹店からの帰り道、酔漢に絡まれて難儀していたところをトスが助けたことから始まった。疾風のごとく現れ、たちまち酔った不埒な両班を撃退したトスは、ミヨンの眼にはこの上なく頼もしく映った。また、トスには、ミヨンがさながら天界から舞い降りた仙女のように見えただろう。
 事実、その話は後にミヨンから幾度も聞かされた。
―あなたは、仙女か?
 トスはしばらく惚けたようにミヨンを見つめていたかと思うと、いきなり問うてきたそうだ。
 今でもトスは母を〝仙女(ソンニヨ)〟と呼ぶ。最初は恥ずかしいから止めて欲しいと頼んでも、トスはその呼び方を止めなかった。

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