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側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第4章 偽りの別れ

 トスが立ち上がった。キョンシルは思わず反射的にトスの方から距離を置くようにじりじりと移動した。どうも、乱暴されかけてからというもの、トスが身動きする度に反応し、警戒してしまうのだ。
 トスはキョンシルの不安に気づいているのかいないのか、部屋の隅に置いてある袋を取ってくると、黄色い布にくるんだ包みを開く。中から現れたのは、キョンシルの手のひらにも乗るくらいの大きさの木彫り人形、安物らしい簪であった。
 トスは簪を壊れ物でも扱うかのような慎重な手つきで傍らに置き、懐から小刀を取り出し、木彫りの人形を削っていく。かなりの手慣れた様子で器用に木を削り、もう殆ど仕上がっている人の形をしたそれの形を整えているようであった。

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