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側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第4章 偽りの別れ

「キョンシルがやっと笑った」
「―」
 黙って顔を上げると、トスの物言いたげな視線にぶつかり、慌てて視線を逸らした。
「昼間にあんなことがあってから、ずっとまともに口も利いてくれなかっただろう。そなたが怒るのは当たり前だし、幾ら詫びても許されることではないとは判っている。だが、いつも太陽のように明るく笑っていたそなたが沈み込んでしまった。俺にはそれがいちばんこたえたよ」
「もう、良いわ」
 キョンシルはゆるゆると首を振った。トスが再び物問いたげな表情でこちらを見るのに、キョンシルは儚く微笑んだ。
「トスおじさんだって、お母さんの死とか色々あって疲れてるんだもの。少しくらい気が動転してしまっても仕方ないと思ってる」

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