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側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第4章 偽りの別れ

 だが、彼の見たかったのは簪を挿したキョンシルではなく、母ミヨンだったに違いない。彼の眼に、キョンシルは母とそっくりに映っているらしいから、今、彼が見ているのはキョンシルではなく、ミヨンなのだろう。
 そう思うと、簪を貰った歓びも俄にしぼんでくる。そして、物事を悪い方にしか考えられない自分がもっと嫌になった。
 でも、そんな胸中を表に出せるはずがない。
 しきりに〝似合う〟を連発するトスに、キョンシルはやっとの想いで笑顔を作った。
 そろそろ、元どおりの二人に戻ってきたようである。―少なくとも表面だけは。
 しかし、屈託ない関係に戻ったのはあくまでも上辺だけにすぎないことを、当の二人が誰よりも知っていた。既に起こってしまったことをなかったことにはできない。

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