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側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第4章 偽りの別れ

 ましてや、トスはまだ三十の男盛り、キョンシルは今にも開こうとする花の蕾であった。いや、少なくとも、キョンシルの方はこれまでと同じようにトスへの思慕をうまく封じ込めるだろうとは思っていた。
 が、トスの方は女のキョンシルとは違う。男の欲望は女とは根本的に異なるのだ。ひとたび女として意識し始めたキョンシルとこれからも共に旅を続けるのは至難の技であった。彼が既に心で決めている悲壮な覚悟をまだ、この時、キョンシルは知らなかった。
 夜もかなり更けてきたのか、小屋の中の気温がぐっと下がった。見れば、薪の焔もすっかり小さくなっている。話に二人とも夢中で、火勢が弱まったのも気づかなかった。
 トスがほのかな苦笑いを滲ませ、拾い集めてきた枯れ枝をパキリと折り焔に放り込む。

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