テキストサイズ

側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第2章 哀しみはある日、突然に

「キョンシル、キョンシル?」
 軒を打つ雨音につい聞き入ってしまっていたキョンシルは、ハッと我に返った。
「あ、ごめんなさい」
 キョンシルは慌てて、伏せていた面を上げた。
 光り輝く衣(きぬ)を纏う母は、いつもより更に何倍、いや何千倍も美しかった。
 母は一ヶ月後の祝言で着る婚礼衣装を手ずから縫っていて、つい昨日、仕上がったばかりであった。
 まさに咲き誇る薔薇色の牡丹といった風情だ。
「どうしたの、具合でも悪いのかい?」
 美しい母の貌がさっと翳る。
 キョンシルは首を振った。
「ううん、まさか。昨夜、あまり眠れなくて、ついボウっとしちゃったみたい」

ストーリーメニュー

TOPTOPへ