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側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第4章 偽りの別れ

「俺の生まれ育ったのは、海辺の町だ」
 話し始めたトスは、仕方ないと言いたげな表情にわずかに寂寞の色を滲ませた。遠く離れた故郷を思い出してしまったのだろうか?
「海辺の町? 海の近くなのね。話になら聞いたことはあるけど、本物の海って、どんなものなのかしら」
 自慢にもならないけれど、キョンシルはまだ生まれてから一度も海というものを眼にしたことがない。
「大きな町なの?」 
 好奇心に眼を輝かせるキョンシルに、トスが眼を閉じてしきりに何かを思い出すような表情になる。
「まあ、そこそこだ。大都市というほどでもないが、辺鄙な田舎町というわけでもない。人もそれなりに住んでいて、商家もたくさんあったしな」

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