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側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第4章 偽りの別れ

「ね、トスおじさん、やっぱり、おじさんの故郷に行きましょうよ。私、おじさんが話してくれた浜木綿というお花を見てみたい。海辺の小さな家を借りて、二人で暮らすの」
 たとえ、そこで何があったのだとしても、トスにとっても故郷ならば、一度は還りたいと心のどこかでは願っているのではないだろうか。
「トスおじさん、おじさんの生まれたふるさとの町に連れていって」
 トスからの返事は言葉としては返ってこなかったが、彼はにっこりと微笑んで頷いてくれた。
 トスがまた枯れ枝を折って、焚き火に投げ入れた。焔がひときわ大きく燃え上がり、トスの整った容貌が濃い陰影に縁取られて浮かび上がっていた。

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