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側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第4章 偽りの別れ

 つまり、それほどに愉しいのだ。どうもこの娘の調子に完全に乗せられている気がしないでもないが、人生で初めて〝心から愉しい〟と思える瞬間なら、今は存分に味わえば良い。
 天真爛漫かと思えば、時々、こちらがドキリとするような艶めかしい表情を見せる。多分、キョンシルの十五歳という年齢特有のもの、彼女の本来の気性、どちらもあるのだろう。宋キョンシルという娘の中には妖艶な女とあどけない少女が同居している。
 トスがキョンシルに惹かれ始めているのも、彼女の中の二面性ゆえもあった。
―トスおじさん。
 キョンシルの朗らかな声音が耳奥でこだまする。あれほどトスを心から信頼し、慕っていた少女を酷く泣かせ、怖い想いをさせてしまった。

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