テキストサイズ

側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第4章 偽りの別れ

 トスの中で悪魔が囁きかける。
 トスはそろりと手を伸ばした。キョンシルが規則正しい寝息を立てる度、豊かに育った胸のふくらみがかすかに上下する。
 トスの吐く息が早くなった。もう一度、もう一度、あのやわらかな乳房をこの手で触ってみたい。更に息を荒くして、手を伸ばし胸に触れようとしたまさにその時。
 キョンシルの泣き顔が唐突に浮かんだ。
―いやっ、お母さん。助けて、お母さん。
 大粒の涙を一杯に溜めていた娘の泣き顔がミヨンと重なり、やがてミヨンの面影は消え去り、キョンシルの泣き顔だけが大きく迫ってくる。
 ああ、ソンニョ。俺のソンニョ。
 トスは心の中で亡き恋人に呼びかけた。
 俺は一体、何をしようとしていたんだ?

ストーリーメニュー

TOPTOPへ