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側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第5章 対面

 対面

 キョンシルは自らを落ち着かせるように右の手のひらを静かに胸に添えた。
 早く何か言ってくれないだろうか。期待を込めて相手を見つめても、はるか上座に座る老人は渋面のままだ。
 既にこの室に通されて、ふた刻にはなる。まず一人で延々と待たされ続けたのが一刻、更に、この老人が漸く姿を見せてから一刻。
 ざっと、こんな勘定だ。
 それにしても、何という贅沢な設(しつら)えだろう。大体、この部屋一つだけでキョンシルが暮らしていたあの小さな借家全部より広いではないか。更にあの大柄な老人が座っている座椅子(ポリヨ)は明らかに絹張りだし、背後にでんと鎮座している屏風には見事な四季の花々が淡い絵の具を使って繊細に描かれている。

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