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側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第5章 対面

 彼はむろんのこと、彼の妻の嘆きは更に深かった。母親というものは、息子を嫁に取られるような気がするものだとはよく聞く言葉だが、彼らの息子は並の女ではなく、畜生にも劣る賤しい女を選んだのだ。
 家門が多少低くとも両班家の娘であればまだ許しもできた。しかし、町の酒場の女将の娘など論外も良いところであった。息子を誑かした女は巷で〝都随一の美女〟と謳われていたという。まだ若い息子は女を見る眼がなく、狡猾な女にまんまと骨抜きにされてしまったのだ。
 それでも、彼はいつしか息子が眼を覚まして戻ってくると信じていた。だが、息子は帰ってくるどころか、両班の身分を捨て去り、一介の民となり女と所帯を持った。

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