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側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第5章 対面

 彼は時折、屋敷の信用できる使用人をひそかに町に行かせ、息子の暮らしぶりや動向を探らせていた。宋ミヨンと息子は結婚後は酒場ではなく、そこから近い小さな借家で新婚生活を営んでいた。
 彼にすれば、仮にも崔氏の息子が酒場で起居しないことだけがせめてもの救いであった。息子は妻子を養うために、生命を削るよようにして働いていた。両班家で育った若者が力仕事などできるはずがない。息子は学問に秀で、達筆でもあったゆえ、町の代書屋で働いていた。仕事場を酒場ではなく代書屋に選んだのも、父である彼のいくばくかの慰めにはなり得た。
 代書屋の賃金など、たかが知れている。息子は妻と生まればかりの児のために、少しでも金を稼ぎたかったのだろう。朝から晩まで根を詰めて仕事をしていたそうだ。

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