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側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第5章 対面

 若い家僕はまだボウとしてキョンシに見惚れていた。噛みつくように言われ、丸い顔に埋もれた細い眼をせわしなくまたたかせた。
「判りません。どこか遠いところに旅に出るような―そんな感じでした」
「そんな」
 キョンシルは奈落の底に突き落とされたも同然であった。
「トスおじさん、トスおじさん!」
 いきなり走り出したキョンシルを見て、家僕は面食らったようだ。
「お嬢さま、無理ですよ。それに、そんなに走ったら、転びます」
 家僕に止められても、キョンシルは走った。身体を動かすのは嫌いではないが、子どもの頃から走るのだけは苦手だった。〝や~い、のろま〟とガキ大将から苛められ、よく泣いたものだ。

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