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側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第5章 対面

 走っている間に、こぼれ落ちた涙が風に乗って散ってゆく。血相変えて叫びながら走ってゆく彼女を見て、通りの向こうから歩いてきた物売りらしい女がギョッと脇によけた。
 その後ろを急ぎ足で歩いてゆく労働者らしい初老の男も気違いを見るような眼で見ている。が、トスを追いかけることしか頭にないキョンシルには、自分が周囲の眼にどのように映っているかなど、どうでも良かった。
 果たして、さしたる距離を走らない中に、キョンシルは道ばたの石につまずいて転んだ。
「トスおじさん―」
 キョンシルはその場に呆気なく倒れ込んだ。

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