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側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第5章 対面

「その調子じゃ、逢わなかった間も俺のことなんて全然、思い出しもしなかったんだな。俺、つくづく商売なんて向いてないんだ。計算もほら、昔っから全然、できなかったしさ。字も憶えるのは苦手だし、そんならいっそのこと、どこかのお屋敷に奉公に行こうって、運良く、ここのお屋敷に雇って貰えたんだよ」
 かつてはジュボクも一緒に読み書きを習いに通った仲間である。彼は、いつも物憶えが良くなくて、先生に叱られてばかりであった。
「そうだったのね。私はてっきり、あなたが八百屋をやってるんだとばかり思っていたの」
 キョンシルは歩き出そうとして、顔をしかめた。
「痛―」
「どうした?」
 ジュボクが不安そうにキョンシルの顔を覗き込む。

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