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側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第6章 崔家での日々

 キョンシルは長い間、その場に立っていた。両脇に垂らした手が小刻みに震えた。
 何故、自分がここまで愚弄されなければならないのか。謂われのない誹りを受けなければならないのだろう。
 涙が込み上げてきて、キョンシルはまたたきで散らした。  
―トスおじさん。今、どこにいるの?
 眉の濃い、懐かしい髭面が瞼に浮かび上がり、キョンシルはグッと唇を噛んで、また溢れそうになった涙を堪えた。あまりに強く噛んだため、口中に鉄の味を含んだ酸味がひろがる。
 〝幸せを祈っている〟と素っ気ないひと言だけを残して、去っていった男。トスは恐らく、キョンシルを重荷に思い始めたのだろう。亡き恋人の忘れ形見ということで、一旦は引き取って面倒を見る気になったものの、やはり厄介になった。

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