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側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第6章 崔家での日々

「うちの女中より、そなたの方が上手いな。こうしていると、鉛のように重かった身体が軽くなっていくようだ」
 思いもかけなかった褒め言葉に、キョンシルは意気揚々と応えた。
「ありがとうございます。こんなことで良かったら、いつでもさせて頂きますので」
 キョンシルは、眼を閉じているイルチェの顔をしみじみと眺めた。この人が自分の祖父なのだ。もしかしたら、顔を憶えていない父は、この人に似ていたのだろうか。そう思うと、何か心が温かいもので満たされていくような気がした。
「そなたは確か十五になるのだったな」
 はい、と、頷くと、続けて問われる。
「父親の記憶はあるのか?」
「いいえ、お父さんが亡くなったのは私が生後六ヶ月のときなので。全く憶えていないのです」

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