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側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第6章 崔家での日々

 頼むから、愚かだった父を許してくれ。儂はまた張らなくても良い意地を張って、大切なものを失おうとしている。チソンや、儂に勇気をくれ。今後こそ、十六年前と同じ過ちは繰り返したくない。
 イルチェは震える手を空(くう)に差し出す。あたかもこの部屋を出ていったキョンシルがまだここに、彼の側にいるかのように。
 だが、彼の震える手をしっかりと握り返してくれる人は誰もいなかった。イルチェの顔には強い寂寞の色が漂っている。
 もう、遅いのだろうか。既に手遅れなのだろうか。彼はあまりにも疲れ果て、がっくりと眼を閉じた。

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