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側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第6章 崔家での日々

 だが、よくよく考えてみれば、あの老人がキョンシルを手間暇かけて探すはずもない。かえって、彼女がいなくなって、追い出す手間が省けたと歓喜している可能性が強い。
 キョンシルの瞼には、あの老人の眼が灼きついて離れない。少しは祖父と孫らしいと思える会話の途中、突如として怒りと憎悪を剥き出しにして、まるで汚いものでも見るような蔑みに満ちた視線で彼女を見たのだ。
 恐らく、彼女が会話の狭間で〝母〟を持ち出したことが老人の怒りに触れたのだろう。確かに母は祖父から見れば、息子を奪っていった憎い女かもしれない。しかし、母を選んだのは父自身であって、母に罪はない。人から好意を向けられること、愛されることが罪だというのなら、この世の中に恋愛はなくなってしまうだろう。

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