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側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第7章 未来を照らす一番星

 キョンシルの胸に熱いものが込み上げた。
「もう、良いのです」
 キョンシルは、うなだれる白髪頭に向かって優しく言った。
「今のイルチェさまのお言葉を聞いて、父も母もきっと歓んでいると思います。これで、二人とも安心して永の眠りにつくことができましょう」
 イルチェが何か言おうとして言葉につまった。皺の刻まれた頬にひとすじの涙が流れ落ちる。
「お祖父さま」と、キョンシルは呼びかけた。
 イルチェが涙の光る眼をまたたかせ、キョンシルを見た。
「お祖父さまのお気持ちはとてもありがたいのですが、私はやはり、お屋敷には戻りません。私は下町で生まれて下町で育ちました。両班の世界は、私がこれまで生きてきた世界とはあまりに違いすぎます」

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