側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】
第8章 第二話 【はまゆうの咲く町から】 海の町から
海の町から
卿(キヨン)実(シル)は両手を一杯にひろげ、深呼吸する。途端に、吹き抜けていった風の匂いが身体中を海色に染め上げてゆくような錯覚に陥った。
もう我慢ならず、草鞋を脱ぐと、ついでに足袋(ポソン)まで脱ぎ散らし、寄せては返す波頭(なみがしら)に近寄ってゆく。
「おい、キョンシル」
道(ト)洙(ス)は少し離れた後方から、優しいまなざしで見つめている。先刻から頑是ない童女のようにはしゃぎっ放しのキョンシルを見つめる瞳はどこまでも静謐だ。
あまりにはしゃぎすぎたせいか、キョンシルは自分で跳ね散らかした水飛沫(みずしぶき)が顔に当たり、小さな悲鳴を上げる。
卿(キヨン)実(シル)は両手を一杯にひろげ、深呼吸する。途端に、吹き抜けていった風の匂いが身体中を海色に染め上げてゆくような錯覚に陥った。
もう我慢ならず、草鞋を脱ぐと、ついでに足袋(ポソン)まで脱ぎ散らし、寄せては返す波頭(なみがしら)に近寄ってゆく。
「おい、キョンシル」
道(ト)洙(ス)は少し離れた後方から、優しいまなざしで見つめている。先刻から頑是ない童女のようにはしゃぎっ放しのキョンシルを見つめる瞳はどこまでも静謐だ。
あまりにはしゃぎすぎたせいか、キョンシルは自分で跳ね散らかした水飛沫(みずしぶき)が顔に当たり、小さな悲鳴を上げる。