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側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第8章 第二話 【はまゆうの咲く町から】 海の町から

「おやおや、また、意外な者の顔を見られたものだ」
 和尚は笑みを絶やさず、トスと抱擁を交わした。しばし抱き合っていた二人は離れ、和尚は眼を細めてトスを見た。
「よく帰ってきたな、トス。もう生きている中(うち)は、そなたに逢えぬものだと諦めていたのだが、やはり、お告げは嘘ではなかったのだな」
「お告げ?」
 訝しげな面持ちのトスに、和尚は幾度も頷いた。
「今朝方、夢を見たのだ。そなたの父上の夢だ。儂(わし)はこんな爺(じじい)になってしもうたが、夢の中のそなたの父は若く、相変わらずの生真面目な顔をしておったよ」

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