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側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第8章 第二話 【はまゆうの咲く町から】 海の町から

 言葉は丁重ではあるが、当然と言いたげなトスの口ぶりに和尚は野太い眉尻を下げた。
「どうせ儂が駄目だと断っても、そなたは居候を決め込むのだろうが」
 和尚の方も口では迷惑げだけれど、トスを見つめるまなざしは柔らかく慈愛に溢れている。まるで、父親が長らく合わなかった息子を見ているような態度だ。そういえば、慈心和尚はトスの父親の知り合いらしいことが、二人の話の端々から窺えた。
 トスは謎に包まれた男だ。もしかしたら、母ミヨンはある程度のことは知っていたのかもしれない。何しろ、結婚を目前に控えていたほどの親密な間柄だったのだから。むしろ、妻となるべき女性が良人となる男の過去について何も知らないという方がかえって不自然だ。

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