テキストサイズ

側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第8章 第二話 【はまゆうの咲く町から】 海の町から

 夫婦や恋人に間違われて、キョンシルは複雑な心境だった。もちろん、トスをひそかに恋い慕うキョンシルが嬉しくないはずがない。しかし、トスは今も亡くなった母ミヨンを心から愛しているのだ。亡き婚約者の娘であるという厳然たる事実以前に、トスの心はミヨンで一杯なのだから、キョンシルが入り込む隙間など、ありはしない。
 それでも、恋人に間違えられたり、宿の女将から〝奥さん〟と呼びかけられると、くすぐったいような、甘酸っぱいような感情に心が疼くのは止めようがなかった。
 海辺の町での新しい日々が始まった。トスが二人の〝家〟にいることは日中は殆どない。置いて貰って、しかも三度の食事まで厄介になっているゆえ、ただじっとしているというのはトスの性分が許さないのだろう。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ