側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】
第8章 第二話 【はまゆうの咲く町から】 海の町から
和尚はそこまで言うと、合掌し〝南無観世音菩薩〟と小さく辞儀して去っていった。
ふいに冷たいものが頬に触れ、キョンシルは空を仰いだ。鈍色(にびいろ)の雲間から雨滴が落ち始めている。急に空が曇ったのは雨の前兆だったようだ。慌てて元来た道を引き返しながら、キョンシルは和尚から聞き出した新たな事実―トスの父と慈心和尚が幼友達だったという―を心で反芻していた。
既に室に戻った時、トスの姿はどこにも見当たらなかった。
「もう、トスおじさんの馬鹿。こんな雨の中、わざわざ出ていかなくても良いじゃないの」
トスが寝転がっていた方に向かって言ったものの、ただキョンシルの声だけが空しく響いてゆくばかりであった。キョンシルは盛大な吐息をつくと、途中止めになっていた繕い物を再開した。
ふいに冷たいものが頬に触れ、キョンシルは空を仰いだ。鈍色(にびいろ)の雲間から雨滴が落ち始めている。急に空が曇ったのは雨の前兆だったようだ。慌てて元来た道を引き返しながら、キョンシルは和尚から聞き出した新たな事実―トスの父と慈心和尚が幼友達だったという―を心で反芻していた。
既に室に戻った時、トスの姿はどこにも見当たらなかった。
「もう、トスおじさんの馬鹿。こんな雨の中、わざわざ出ていかなくても良いじゃないの」
トスが寝転がっていた方に向かって言ったものの、ただキョンシルの声だけが空しく響いてゆくばかりであった。キョンシルは盛大な吐息をつくと、途中止めになっていた繕い物を再開した。