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側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第10章 第二話 【はまなすの咲く町から】 恋の病

「何か病と称して布団の中に引きこもりたくなるような出来事でもあったのではないか? 四日前、転んでできたという口許の傷も、あれも満更、関係がないともいえぬかもしれない」
 四日前、町から帰ってきたソンジュンは怪我をしていた。たいした傷ではないが、それでも唇が切れて、周囲がアザになっていたため、屋敷中、大騒ぎになったのだ。ウォンジュン本人は〝転んだだけだ〟と言い張っていたが、どう見ても、ただ転んだだけのものとは思えない。
 と、乳母が肉に埋もれた細い眼をまたたかせた。
「旦那さま、そう申せば、有天(ユチヨン)が気になることを申しておりました」
 思い当たることがあるらしい。乳母の普段はどんよりとした生気のない眼が光っている。

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