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側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第10章 第二話 【はまなすの咲く町から】 恋の病

 それも当たり前かと、彼は広大な母屋を取り囲む渡廊に佇み、眼前にひらけた庭をしばし眺めた。がむしゃらに働いてきたのは、何も我欲を満たすためではない、すべては息子のためだった。
 李氏はもう何代も前からこの町に暮らし、家門を守ってきた。しかし、さほど大きな商家ではなく、そこそこに商いをやっている程度だった。それが、彼の代になって家門はいよいよ栄え、この町どころか都にまで支店を出すほどの急成長を遂げ、李ソンジュンは一躍、小商人から大商人へと上り詰めた。
 この町にも特権階級たる両班はむろんいるが、今や、町中ですれ違えば、両班たちの方がソンジュンに近寄って愛想や追従を並べ立てる。

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